夏の疾走 Sprint in Summer
oil in canvas / 455x333(P8) / 2016
きらきら、ざわざわ、さらさら、ぐるぐる、夏の思い出は疾走する。
風景画がとても好きで、かつては風景画家になりたいと本気で思っていた事もあった。
僕が画業に復帰したきっかけも風景を描きたい一心からだった。
でも、描いてもちっとも気に入らない。
見た人が「素晴らしい」と言ってくれる絵でも、描いた本人にとってはつまらない。
「これじゃ写真を見ていた方がマシだ」
印象派的な画風は昔から変わらないけれど、荒くざっとした色だけで表現しようと思えば表現できるし、まあ、面倒なのであんまりやらないのだけれど、逆に細かく描こうと思えばいくらでも細かくできる。
でも、そうじゃない。
なんとか自分だけにしか描けない、自分が見てきたものをどうにか画面に表せないものか、何年も試行錯誤しては、ただ失敗作が累々と積み重ねられてきた。
そのうち、「雨上がり」「慈母」「夜明けの岸」という、僕にとっては記念すべき3つの小作品を描き上げた頃から、明らかに自分の目が、ありのままをあるように描くということから脱却し、そこにあるもののエネルギーそのものに目を向けることができるようになったのだと感じた。
夏の高原にいる時、僕は清々しい気持ちと、ざわざわした気持ちがいつも同居する。
その原因は一体何なのか。
山や森や湖は、夏に生命を燃やして一斉に叫んでいる。
ものすごく急いでいる。
生命が沸き立っている。
立ち上がって僕に呼びかけている。
そういう姿が見えた。
夏の高原は走っているのだ。