2017年2月1日水曜日

子供こそ写実的であれ

偉い画家さん達はみんな言う。
「子供の絵が一番素晴らしい」
確かにそりゃ素晴らしい。

ピカソも岡本太郎もその辺の絵描きも、僕の最初の絵の師匠も言っていた。
「子供の絵には本当に教えられることが多い」と。
僕の師匠は、子どもたちに絵を教えることに人生の後半を捧げた人物だ。

でもね、大人が子供の絵を褒める時には、それが大人の身勝手な鑑賞物を見ている視点だということを忘れてはいけない。

それとね。

小学生の絵で、素晴らしいと賞賛されている絵の殆どは、先生が少しばかり手を入れたり、かなり濃い指導が入っていたりすることが多い。

つまり、我々が普段「素晴らしい」と賞賛する絵は、自分の子供が描いた絵を除けば、たいてい、「大人の目で見た素晴らしい」に過ぎないのだ。

そしてだ。

子供が自分が描いた子供らしい絵に満足し、あぐらをかいていると、中学生ぐらいになって観察眼が写実に目覚めた時にはもう手遅れになっちゃう。

やがて子供は思春期になる。
思春期になると観察眼が成長して、写実的にものを描きたいという欲求が強くなる。けれども技術がちっとも追いつかないというか、それまで子供らしい絵で良しとされてきたから、突然目覚めた自分の観察眼に、自分の技量が全く釣り合わないという瞬間が、突然訪れる。

昨日まであんなに褒められていたのに、今日描いた絵は自分でも気に入らないし、先生にも評価されない。
そうして、絵がニガテになり、絵とは縁のない人生を送る大人の一丁上がり。

これは大人の責任。

しかし写実へのアプローチは、今の義務教育では体系づけては殆どやってない。
ただ描かせ、それが中学校の美術では、できた人間だけ評価される。
かなり不公平な状況だ。

音楽は、子供の頃、まだ音楽のおの字も分からないうちから、音階や基礎練習からみっちりやらせ、出来ないと火が付いたように怒るのに、絵は幼児が描いた抽象画みたいなものを手放しで褒めそやし、手遅れになってから写実的であれと手のひらを返される。

僕は逆じゃないかと思う。

音楽というのは、一定の楽譜を読み込む頭脳の発達と、指を正確に動かす筋肉の発達が必要だ。
だから中学生ぐらいになってから初めてピアノやギターを始めても、大人になって立派なプロになっている人はたくさんいるのだ。

絵は違う。
僕の経験では、写実へのアプローチは、早ければ早いほどいい。
遅くとも小学校4〜5年生ぐらいには始める必要がある。
目の前にある物や人物を、なるべく正確に描写する訓練だ。

邪心なく子供らしい絵を描いているうちに、デッサンの基本を少しずつ教えてあげる。

ここで間違ってはいけないのは、正確に描けるという結果を求めるのではなく、見たままをより正確に描くための技法を学ぶということ。

そうすることで、中学生になっても、描きたいように描けるようになる。
というよりも、目の前のものの本質を見極める力が身につく。
ここが一番大切なんだけど、写実をある程度マスターしないと、ものや人が持つ本質には迫ることができない。
その本質に迫るという力は、人生のいろんなところで役に立つ。
大人になり、絵を描かなくなっても、文化の骨格を自分の中に持つことが出来るようになる。


ついでに言えば、中学生に画用紙と水彩絵の具を与えて「さあ描け」というのは残酷だ。
中学生ぐらいになったら、ちゃんとしたキャンバスと油彩絵具を与えてやるべきだ。
さもなくば、美濃紙に岩絵具、はたまたケント紙にGペン。

自分が描いた絵が、一生残るぐらいのお膳立てをしてやらずに、すぐに破ける、丸まってはひび割れちゃう4つ切り画用紙で、何が美術だ。


素晴らしい抽象画を描く人は、デッサンを早くからやっている。

ピカソは、子供の頃から厳格なデッサンをお父さんに仕込まれて、子供らしい絵が描けなかったという。それが原因で、あんな絵を描くようになったという説もある。

それは違う。

ピカソのデッサンは、世で言われるほどうまいわけではない。が、作品は、どれもどんな絵も彫刻も、デッサンの骨格が恐ろしくしっかりしている。
ピカソの絵は、超越した巧さを持っているのだ。
名作と駄作の差が激しいなんても言われるけれど、とんでもない。
描き殴りのような絵でも巧い上に、エネルギーの総量が、同時代の他の作家とは桁違いだ。
ピカソの絵のオーラは、写真では絶対に伝わらない。
実物でなければ分からない。

写実をやったからこそ、ものの表面的形態を越えて、あのエネルギーが生まれたのだ。
あれは純粋な子供には絶対に描けない。
完全に大人の絵なのだ。
だから芸術になった。

子供の感性は素晴らしい。
それが故に、子供の感性を大人になっても忘れず、そこにさらに大人の技巧や視点、技法をきちんと加味することができて初めて、芸術は生まれる。









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