2016年5月18日水曜日

燃費計測不正はメーカーだけが悪いのか

ちょっと前に、三菱自動車が軽自動車の燃費を良く見せかけるために、燃費データを改ざんしていたというニュースが巷を賑わせました。

数日前には日産のディーゼル車が韓国で燃費の改ざんをしていたとの疑惑で刑事事件になりそうな気配。まあこれはおそらく濡れ衣でしょうね。
そして今日はスズキ自動車です。

三菱は以前から軽に限らず実燃費との乖離が大きいのは噂になってはいましたが、スズキの場合、どうやら国が定めた試験方法で測定し直しても燃費は変わらないということで、じきに沙汰止みになりそうではあります。

いずれにしても不正は不正ですが、中には「騙された」などと宣う向きもネットに散見しています。

しかし、僕から見ると、どの案件も「メーカーが不憫」という印象しかありません。

例えばヨーロッパ車の場合、実燃費は
常にカタログ値の±10%前後。-10%ではなく、「±」です。
日本車の場合たいてい-20〜-30%。酷いのになると-50%(新車による実体験)。どんなに頑張ってエゴもといエコ運転してもカタログ値は到底無理。

三菱やスズキだけじゃない。
昔からです。

実燃費と程遠い燃費測定を許している法律そのものも問題だし、それでよしとしてるユーザーもですよ。

カタログデータだけを見て燃費の良し悪しを決める。実際に数十パーセントの乖離が出ても誰も文句を言わない。

それでいて二言目には燃費燃費とそればかり。

「日本車が一番!」という人ほどそんな傾向があるようにも思えます。

燃費は大事です。

しかしレシプロエンジンである限りエネルギー効率には限界があります。
夢のような燃費を望むというのは無知というものです。

いささか古い計測方法ですが、10モード15モードによる燃費で見た場合ここ40年それほど劇的にはクルマの燃費というのは改善されてはいないのです。

実情に合わないという理由で新たに制定されたJC08モードですが、これとて基本的には10/15モードと変わったわけではありません。実質両者の違いはほんの僅かです。

ところが世間のイメージ的には燃費は時代とともにどんどん良くなっていると思われている。

スズキスイフト(1.2L)の場合、カタログ値はリッターあたり21km/lです。
実燃費はリッターあたり16km〜17km。
実に立派なものです。
でもね、これは30年前のリッターカーと似たような数値です。

ただ安全装備やなんやかんやで重量が増えた分、メーカーは苦労している。
30年前と同じエンジンでは当然この燃費は出せません。
エンジンの効率も確かに上がっています。

しかしこの低燃費の達成が今、主に何でなされているかというと、燃料噴射とアクセルレスポンスの制御です。
アクセルペダルをガバッと踏んでも、コンピュータがブロックしてリニアには燃料はエンジンに運ばれない。
たいていのクルマはこのカラクリで燃費を稼いでいる訳です。
だから加速はあんまり良くない。

スバルレガシィのもっとも出力の小さな2.0Lのエンジンのカタログ値は13km/l。しかし実燃費が8km/lを上回ることは稀でした。

スバルという会社はバカ正直なところがあって、フールプルーフで燃費を稼ぐようなことはしない。
しかしそれでもやはりカタログ値は盛って盛って盛りまくった数値が書かれています。
バカ正直な会社にしてこれです。

これが何を示しているのか。
それはメーカーが不誠実だからではありません。
意味のない計測方法を強いる法律と
その名目燃費ばかりを気にしてクルマを選ぶユーザーに合わせているからです。

その親玉が「ハイブリット車」です。
あれは今の法律による計測法でもっとも成績が上がるクルマです。

スイフトはとてもいいクルマですが、加速性能をきちんと出そうとすればおそらく実燃費はもっと高く(悪く)なってしまうでしょう。
しかしそれではハイブリッド車の名目燃費とまともに戦えない。
だからいろいろ小細工をしてエンジンをデチューンして名目燃費を稼ぐ。

しかし実際の運転ではこんな燃費は決して出ない。実際の走行時の加速やアクセル開度、空気の抵抗、路面抵抗にあまりに差があるからです。

この現代において、オドメータと満タン法によって愛車の燃費を把握している人が一体どれだけいるでしょうか?
(クルマのコンピュータの燃費計測計は5%程度の誤差があるので正確ではありません。)

実際、クルマというのは
燃費を良くしようと思えば動力性能が犠牲になる。
市街地で燃費がいいクルマは高速では良くない。
高速で燃費がいいクルマはしがいちでは悪くなる。
レシプロエンジンのエネルギー効率には限界がある。

常にこの矛盾と戦ってるわけです。

この辺の矛盾を最近の小型ヨーロッパ車は力技で解決しちゃってますよね。

つまり
エンジンを極力小さくする。
スーパーチャージャーや低圧縮ターボで低速トルクを太らせる。
低燃費を気にしてアクセル開度を抑えればそれなりに低燃費で走れる。
追い越し加速など俊敏な加速が必要な時はターボを効かせて走る。
巡航の際はどちらも最小限の効きになる。
結果的に、パワーは排気量比2倍程度のエンジンと同等となり
燃費は排気量比1.5倍程度のエンジンと同等となる。


僕自身はハイブリッドも低圧縮ターボもあまり好きではありませんが、テクニカル的にはハイブリッドよりもターボの方が王道ではないかと思います。

ハイブリッドは実際の使用場面によって著しく燃費が変わってしまう。
電気で走る距離を多くしないかぎり、ストップアンドゴーの多い場所でしかそのメリットを味わうことが難しいのです。
電気で走るのがいいなら、電気自動車に乗ればいい。

もっとも環境負荷という意味においてはハイブリッドもEVも決して優等生とは言えない。
ヨーロッパ車のダウンサイジングターボは燃費そのものよりも環境負荷を念頭に置いているのです。
もうこの時点で着地点が全く違うのですが、この話はまた別の機会に譲るとして……。

何はともあれ
メーカーは我々が普段使う状況での実燃費に近いデータをカタログに載せるべきです。
そのためには我々ユーザー自身がもっと燃費以外の部分にも目を向けてクルマを走らせる必要があります。