2023年9月9日土曜日

創作とアンビバレンス

【優れた創作は、作家の人生のアンビバレンス(非整合性、葛藤)と無縁ではいられない】


…とはよく言ったものですが、説教臭い人生論はさておき、今日の夕飯は絶対に魚にしようと決めていたのに気がつけば火鍋屋にいたとか、ヒゲを剃るはずなのに顔を洗っていたとか、とにかく生きている限り、自分の言動に整合性がとれていることなど珍しいものです。


ベートーヴェンがゲーテの振る舞いに激怒して訣別した(※)なんてのは彼のアンビバレンスを説明するには全然生やさしい事件に過ぎませんが、彼は訴訟や難聴、借金など、あまりにゴタゴタした私生活と困難や絶望を繰り返しながら、その一方であまりに美しくそしてエネルギーに満ち溢れた旋律の数々を生み出し、それまで王侯貴族のためのものであった音楽を一般市民のための音楽にまで昇華させ、古典主義音楽を完成させました。


そんな楽聖ベートーヴェンの葛藤に比べれば凡俗中の凡俗に過ぎない僕のそれなどノミの地団駄に過ぎませんが、やはり制作していると、勝手に生まれる色彩やカタチは、自己の非整合性と戦ってる感がいろんなところで出るなあと、妙に感じ入るのです。


まあ、どんな葛藤があろうが最終的に美しいもの、自分でヨシとするもの、そして誰かを幸せにできるものに昇華されていくのであれば、何でもいいんです。


(※註釈)

当時はまだ王侯貴族からの召し抱えが無ければ安定収入が得難い時代。安定収入を渇望しながら、ゲーテの貴族たちにおもねる振る舞いに激怒してゲーテと訣別してしまうという、彼の反骨精神、反権威主義的姿勢を代表する武勇伝。


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