2014年7月11日金曜日

天命男

大きな駅の地下道を
よろよろ男が歩いてる
大きな荷物を抱えた初老の男
背中は曲がりよたよたと
右も左も背中にも
「天命」大きく殴り書き

抱えきれずに荷物ごと
こけつまろびつ、ひとごみを
行き交う人はさげすんで
舌打ちしながら去ってゆく

女が一人うずくまる
雑踏の壁によりかかり
靴が片方転がって
顔を歪めて足さする
希望の見えない唇に
誰も気づくことはない

たったひとりを除いては
男が女に近づいた
両手は荷物で塞がって
顔は重みで歪み切る
なのに眼光らんらんと
鋭く女を見据えやる

近づく気配はただならぬ
歪んだ顔と眼光と
今にも襲い掛かってくるのではと
女は怯えて身を捩る
足が痛くて動けない

男は荷物を持ち替えて
女の腕とり引き起こし
靴を拾って足元に
置いてよろけて踵を返し
一人でよろよろ歩き出す
右も左も背中にも
「天命」大きく殴り書き




0 件のコメント:

コメントを投稿